ドッキリと彼女(第4回妄想大会投稿作品その3)

 

 

「和也~、朝ごはんできたわよ~」


とある休日の朝。
二人分の朝ごはんが用意できたので彼を呼ぶ。

 

しかし特に反応は聞こえない。

 

「...?和也~?」


部屋に向かうと、彼は寝息を立てていた。

「もう、まだ寝てたのね」


そのまま彼を起こそうとしたが、ふと思い立った。

"ただ起こすだけじゃつまらないし、ちょっとドッキリみたいなことしてみよう"


「...それいいかも」


私はわくわくしながら、どんなドッキリをするか考え始めた...

 

――――――――――


「ん...」


気が付いたら、目の前には画面が真っ黒になったノートPC。

「和ちん、やっと起きたか」
「いくら授業つまらなかったからって最初から最後まで寝てるって相当だぞ」
「今日の内容試験に出ても知らねーからな」


どうやら俺は寝落ちしていたらしい。
確かにここは練馬大学の見慣れた講義室。ただ、なぜか懐かしさも感じる。

「ほら、さっさと帰るぞ」

「お、おう」


木部に促され、手早く荷物をまとめる。


そう、俺は練馬大学経営学部の学生だ。なにもおかしいことはない。

...ただ、なぜか寝る前のことが思い出せない。

 

大学構内を歩いていると、顔も知らないカップルが手をつないで歩いているのが見えた。

「は~あ、全く。公然の前でもお熱いこと。」
「ああいうの見せつけられると死にたくなるな」
「はー、可愛い彼女欲し―」
「和ちんもそう思うだろ?」

「いや、俺にはちゃんと彼女が...」

「は??お前何言ってんの?」
「麻美ちゃんに振られたショックからやっと立ち直ってだいぶ経ってるからもう平気なのかと思ったらまだそんなこと言ってんのか?」
「いい加減現実見ようぜ。お前にそんな簡単に彼女なんかできるわけねーだろ」

「...う、うるせー」


無意識に否定しそうになったが、その彼女か誰なのか思い浮かばなかった。

そうだ、麻美ちゃんに振られてあんなに落ち込んでたくせに何言ってんだ俺は。
麻美ちゃんだって俺には高すぎる高嶺の花だったってのに、そんなあっさり彼女ができるわけないんだよな...


そんなことを考えていると、今度は前方から一人の女の子が歩いてきた。
黒髪眼鏡に三つ編みのおさげ。
黒のニットにジーンズのパンツ
右肩にトートバッグを下げて本を抱えながら歩いてくる。
いかにも地味な女子。

でもその子が見えた瞬間、ドキドキが止まらなくなり目が離せなくなった。


ずっと見とれていたら、彼女と目があった。

しかし、彼女は興味ないとばかりに目を前に向けそのまま去って行った。


それがなぜか無性にショックで、胸が痛くなった。

「なあ...、今の子って...」

「ん?ああ、えーっと確か文学部のいち...市原さんだったか?」
「いかにも根暗って感じで、俺は興味ないな」
「まあ、お前にはあれぐらいがちょうどいいんじゃないか?」
「ははは」


うーん、全然知らない...

でも、なぜ俺は知らない子に無視されてこんなにショックを受けてるんだ...?

 

納得がいかないまま木部と別れ、いつものアパートに着いた。


階段を登ったら、隣の204号室が気になった。
しかし表札に名前はなかった。空室だ。


それを見て、余計に悲しい気持ちになった。


自分の部屋に入り、そのまま布団に飛び込む。

 


「なんで俺は隣の部屋が空なだけでこんなに落ち込んでるんだよ...」


「なんで俺は知らない女子にあんなにドキドキしてたんだよ...」


「なんで俺はその女子に目をそらされただけでショック受けてるんだよ...」

 

......俺は、何か大事なことを忘れてしまっているような気がする


「なんで俺は、何も思い出せないんだよっ...」


麻美ちゃんに振られたときの何倍もの苦しさと辛さが俺を包む。


「どうしちまったんだよ...俺...」

 

 

そのまま意識が遠のいていった。

 


......

 


.........

 


............

 

 

「.....っと」


「...ちょっと」


「ちょっと、いつまで寝てるのよ!」

 

「あんた、もうとっくにレンタル時間過ぎてるわよ!」
「しかも宿泊だなんて、利用規約違反だわ!事務所に突き付けてやる!」
「延長分の料金もきっちり払ってもらうからっ」

 

......

 

「...なーんちゃってっ」
「ドッキリ大成功~」

「......」

「あ、あれ?ちょっと驚かせすぎた...?」

「...ち...づる...?」

「ご、ごめんっ、ついビックリさせてみたくなっちゃって...」
「嘘だから、ね?」

「...ちづる...なんだよな...?」

「そ、そうよ」

「俺たち、恋人同士なんだよな...?」

「うん」
「だからお金も取らないし、事務所になんて言う必要もない。」
「...ごめんなさい。そんなにショック受けると思わなくて...」

「ちづる...っ」
「ちづる~~~っ」

俺は思わず彼女を強く抱きしめてしまった。


「ちょ、ちょっと...」

「俺、ずっと夢見てて...」
「なぜか大学生で、彼女いないことになってて...」
「それに、ちづるのこと全然覚えてなくて...」
「大学ですれ違っても無視されるし...」
「アパートに戻っても隣の部屋には誰もいないし...」
「でも、何も思い出せなくて...」
「それがすごく苦しくて...」
「夢で本当に良かった...っ」

「...そういうことね。」
「安心して。私はどこにも行かないし、貴方を無視なんてしない。」
「もちろん忘れるわけなんてない。だって私の大切な人だもの。」
「...ごめんね、そんなときにドッキリなんてしちゃって」

「いいよ、全然。」
「だって俺を楽しませようとしてくれたんだろ。それだけでうれしいよ」

「和也...」
「...っ!」

そのままキスをした。


「...好きだ、ちづる」

「っ......」

「...」

「...ご、ご飯できてるからっ、早く食べましょ!」
「私、先戻ってるからっ」

「...そうだな。すぐ行くよ」


バタン。
彼女は部屋を出ていった。

 

 

――――――――――


バタン。

 

......

 

......

 

......

 

...もうっ


「ばかっ」
「ドッキリさせようとして、なんで逆にドッキリさせられてるのよっ」

 

 


おしまい



―2021.11.07(第4回妄想大会)投稿


コメント
以前、Twitterスペースにてドッキリネタの話が出ていたのでそこから着想。
その時に、ちづるがドッキリしようとして逆にドッキリさせられる展開はすでに考えていた。

その後、一部で夢落ちネタの話も出てきたのでそれも盛り込んでみた。

書いてたら夢落ちの方が内容濃くなってくし話も長くなっていったのでこっちがメインなんじゃないかと思えてきた。

ちなみにちづるが何のドッキリするかを一番悩んだ。