お詫び...と彼女(第5回妄想大会投稿作品)

 

――――12月24日


世間はクリスマス一色。


彼氏・彼女持ちの人々は、それぞれにとって大切な人共にこの聖夜の時間を過ごす。

一方、そんな相手などいない者たちは、嫉妬や悲しみなどと共にこの虚無の時間を過ごす。


そして、この一年で一ノ瀬ちづるというそれはそれは素晴らしい女性と恋人関係になった俺、木ノ下和也はというと...

 

―――― 一日中自分の部屋にこもっていた。

 

「...はぁ」


この一年でいろいろあって、無事付き合うことになった俺達。
嘘の恋人関係などは気にせずに堂々と過ごせる初めてのクリスマス。

...になるはずだった。

 


なんと、このクリスマスイブの日に、ちづるのアクターズスクールのレッスンが一日中入ってしまい、やむなくデートはキャンセル。
じゃあその前にデートを、と提案しても「大学の試験とか課題とかあるし、お互いそっちに集中しましょ」と、断られた。
...まあ、俺の成績があんまり良くないせいってのもあるけど。


そんな感じで、彼女持ちになったにも関わらず以前と同じようにこの日を過ごしていた。

 

ブーッ、ブーッ
スマホが震える。

見ると、もう毎年見慣れた木部からの「めりくり」のLINEだった。

木部、お前は変わらないなあ。なんか安心するよ...

 

「...はぁ」
「結局今年も一人か...」

そんなことをつぶやいていると、

 

『ピンポーーン』

インターホンが鳴った。


なんかネット注文してたっけ...?
と疑問に思いながらもドアを開ける。

 

「...こんばんは」

「ち、ちづる!?」

なんとそこには配達員ではなく、ちづるが立っていた。


「...レッスン終わって、今からでもって思ったんだけどあんまり時間なさそうだったし、」
「でもだからといって何もしないのは嫌だったから。」
「...せめて、部屋で二人で過ごしたいと思って」

「お、おう...」

「中入ってい?」

「もちろん」

「じゃ、おじゃまします」


そのまま彼女を部屋に通す。

 

まさか、彼女から来てくれるとは思わなかった。
イブの夜を二人で過ごせる、という喜びの反面、
こういうの俺から言わないとだよな...
と少し情けなくなった。

 

「あんまり時間なかったからコンビニで買ってきたケーキだけど、一緒に食べましょっ」

テーブルに二人腰を下ろし、ショートケーキを広げていく。

そこで、さっきから気になっていたことを聞いてみた。

「な、なあ。そのサンタ服って...」

「ああ、これ?」
「スクールの衣装にあったからお願いして借りてきちゃった」
「...あなた、こういうの好きかと思って。」
「どう?」

「...す、すげー似合ってる、と思う」

「...ありがと」

「......」

「......」

「......」

「...ケっ、ケーキ食べましょ!」

「そっ、そうだな!」


慌ててケーキのフィルムを剥がす。

ケーキを切り分けて、それぞれの皿に乗せてもらう。

 


「「いただきます」」

二人そろっての合図で、フォークを手に取る。
そして自分のケーキに第一刀を入れようとすると、

「ちょっと待って」

ちづるに止められた。
顔を上げて彼女を見る。


フォークで自分のケーキに一切れを入れる。
それをフォークで刺し、そのまま俺の前に差し出してきた。

「え?」

「...最近あんまり恋人らしいことできてなかったし」
「こういうのもしたいなーって」
「ほら、早くしないと落ちちゃう」

「おう...」

「はい、あーん」

嬉しさと驚きとで口元が少しおぼつかなかったが、何とか咥えた。

「おいし?」

「うんっ、うまい!」

「そう、良かった」
「じゃ、私も食べよ」
「(ぱく)」
「んー、おいし~!」


やっぱりおいしそうに食べる彼女を見ると、こちらも嬉しくなってくるし、そんな彼女と一緒にいられることに幸せを感じる。

 

そんな彼女と、この前の試験はどうだったか、とかたわいもない話をしながらケーキを食べる。


そして、ケーキも食べ終わってのんびりしていたところで、
「あ、そうだ。これ...」


突然彼女が声を出し、鞄からとあるものを出した。

「これって...」

二枚のディズニーのチケットだった。

「その...せっかくのクリスマスイヴなのにレッスン入っちゃって...」
「でも、別に今日だけがクリスマスじゃないし。むしろ、明日がホントのクリスマスだし。」
「だからその、お詫b...じゃない。そう、仕切り直し。」
「明日ちゃんとクリスマスデートしましょ。今日の分も一緒に。」
「...これをプレゼントというにはちょっと変かもだけど、二人の大切な思い出にしたいから。」
「...どう?」


「...めちゃくちゃ嬉しい。ありがとう、ちづる」

「どういたしまして」

「じゃあ俺からも。...これ、全然大したものじゃないけど」

「これは、手袋?」

「うん」
「時々大学とかでちづる見かけるといつも手元寒そうにしてたから、手袋あった方がいいと思って。」
「そんな高い物じゃないけど、似合うと思って買ったんだ」

「ありがとう...。すごく嬉しい」
「...じゃあ、明日はこれ着けていかないとねっ」

「ははは、そうだな!」

「...」

「...」

お互い見つめ合いながら黙り込む。
そして、どちらからともなく顔を近づける。

「和也...」

「ちづる...」

 

そのまま唇を重ねた。

 


何秒経った後だろうか、お互いゆっくり唇を離す。

 

「...ふふっ」

「...ははっ」

二人とも、不意に笑顔がこぼれた。


とても幸せな気分だった。
きっと彼女も同じ気分だったと思う。


恋人と過ごす聖夜の時間。
初めて味わう時間に、俺は浸っていた。


「...じゃ、そろそろ部屋に戻るわね」

「もう帰るのか?」

「あんまり遅くまで起きて寝坊とかしたら、明日の時間減っちゃうでしょ?」

「そっか、確かにそうだな。」
「じゃあ、部屋まで送るよ」

「別にいいわよ、すぐ隣なんだし」

「そ、そうだな...」

そんなやり取りをしながら、彼女をドアに手をかけた。

「あ、そうだ。和也」

「...?」

「メリークリスマスっ!」

 


おしまい


―2021.12.18(第5回妄想大会)投稿

1カ月スパンでの開催となった妄想大会の作品。
今回は「クリスマス」・「年末」・「新年」のお題限定大会。
僕はクリスマスを選択。

最初はどこかデートする話を考えたけど現地視察するのが虚無になったので断念。
今回は描きたいイラストから話考えました。

正直細かいところでツッコミどころあったりするのであんまり納得しきれてない作品


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今回の大会イラスト ケーキのあーん