最後のカレシと最初の彼氏(第1回妄想大会投稿作品)

なんだかんだで諸問題が解決して、いろいろあった結果一ノ瀬ちづるは「レンタル彼女」を辞めることになりました。

 

――そしてレンカノ最終日。最後の「仕事」、最後の「カノジョ役」。

 


最後のお客さんはいつものあの人。予約通知が来たときはびっくりした。でも、そう来るんじゃないかとも思っていた。
最後の日付を伝えたらその夜の内にはもう予約入れてきた。まったくあの人は。

 

集合場所は池袋東口構内のいけふくろう前。まあ池袋の集合場所としてはあるあるね。
あ、いた。そこそこ身長高いし髪も染めてるから意外と目立つのよね。
相変わらず微妙な服装してる。私への服のチョイスは意外とセンスあるのに、どうして自分の服には無頓着なんだろう。

 

あの人の姿を見ると自然と気持ちが高揚してしまう。だから、無防備に待っているあの人を見ると思わずいたずらしたくなってしまう。
さて、今回はどうやってからかおうかな。じゃああれ試してみよう♪

 


.....

 


最初のプランは映画鑑賞。
元々観たいと思ってた作品だったんだけど最近忙しくて観に行く余裕なかったから凄く楽しみ。
映画館は少し前にグランドオープンしたところ。この建物凄くでかいから池袋くるとかなり目立つのよね。
そういえばここの最上階にバッティングセンターあったな、今度この人連れてこよう♪

 

.....


あああ、やばい。語りたい衝動がやばい。でもレンカノ中だし我慢我慢...がまん...
次はお昼か。どんなお店連れてってくれるのかな?.......がまん、がまん...

 


ランチ。

 


がまん、がまん...がまん...............
やっぱ無理!

 


「ねえねえ!!」

 


.....

 

 

結局2時間も同じ店でしゃべっちゃってた。
熱が入りすぎちゃって店員さんに注意されちゃったし....レンカノ失格ね。
でも最終日だし少しぐらいいいよね。うん、大丈夫、大丈夫よ。

 

ときどきこの人と映画鑑賞とか観劇とか行く機会あるけど、いつも私の感想ちゃんと聞いてくれるし、最近はこの人もしっかり感想返してくれるようになってきたからついついヒートアップしちゃう。
もしかしたら鑑賞するときで一番好きなのはこの時間かもしれない。

 


.....

 


水族館。
もうこの人と水族館来るの何回目かわからない。
でも何度来ても目を輝かせるからつられて私も楽しくなっちゃう。

 

来るたび来るたび雑学を自慢げに話すもんだから私もかなりお魚に詳しくなっちゃったし、ムキになってドマイナーネタを調べるようになっちゃった。
でも、それでこの人を驚かせられたときはすごく嬉しい。

 


売店
またお魚のTシャツ買うの?ホント好きね。

え、なにこれキーホルダー?私に?どうして?
「レンカノ最後だし、お疲れってことで」? まあプレゼントなら受け取っておくわ。
ってなんであなたも同じの買ってるのよ!別にあなたの勝手だし文句はないけど...

 

 

...へへっ♪

 

 


.....

 

 

もう終わりの時間。今日もすごく楽しかった。でも、レンタル彼女「水原千鶴」もこれで最後。
これからは女優「一ノ瀬ちづる」一本で頑張っていかなきゃ。

 


「水原....いや、ちづる!」

 

 

....えっ?

 

 

 


「えっと...、ちづる、今日でレンカノ最後だろ?だから改めてお礼っていうか...」
「その、今までありがとう。こんな俺のことずっと相手してくれて」
「おかげで、すごく前向きになれたし、自分でもかなり変われたと思ってる」
「だから..........」
「................」
「....ちづる、これから女優に専念にすることになるだろ?だから今までより会える時間はもっと減るかもしれない」
「でも、俺は女優目指してるちづるをホント尊敬してて、その姿見るたび、何か力になりたい、支えになりたいって思うんだよ...」
「だから.........だから.......」
「................」きゅっ

 

「....これからは、水原千鶴の"カレシ"じゃない。一ノ瀬ちづるの"彼氏"でいたいんだ!!」
「俺は、ちづるのことが...心の底から大好きだから!!」
「....だから、ずっと君のそばにいたい。傍にいて支え続けたい...」
「........だめ、かな...」

 

 

 

.......

 

 

.......

 

 


....なによ...ばか。
....まったく、ほんとこの人は...

 

 

 

 

 

 

 

.....


「ちょっと和也、早くしなさいよ。おいてくわよ」
「ごめんちづる。スマホが見当たらなくて」
「この前一緒に買い替えに行ったばかりなんだから、もう無くすとかやめてよね」
「ごめんごめん、もう見つかったからすぐ行くよ」
「ほんと、しっかりしてよね」
ぼそっ「(私の最初で最後の"彼氏"なんだから...)」
「ん?なんか言った?」
「な、なんでもない!ほら、先行くわよ!」
「ちょっ、待ってくれよ、ちづる~!」

 

 

東京の隅のささやかな二人、今日も同じアパートから歩いていく。
二人のかばんには、おそろいのキーホルダーが仲良さそうに揺れていた。

 


おしまい

 

―2021.03.13 (第1回妄想大会)投稿

 

コメント

細かい部分の解説は次記事のあとがきに書きまくっているのでそちら参照

 

この作品から僕の妄想ネタはちづる視点で書くようになった。

それにだいたいこれを踏まえたうえでの展開になってるから、ある意味僕の妄想の原点かもしれない